2015年07月08日

う人間が好きなんだ

「運転免許は持っとるか」
「はい」
「うちの耕耘機《こううんき》はターボ搭載しちょるで。並のテクニックじゃ通用せんで、ハハハ」
「はっ、はい」
「ちょっとワシの肩もめや」
「ワシらも、もんでもらおうかいの」
 みんなが一斉に言った。

 飛岡を迎えに啓徳《カイタツク》空港までベンツを走らせているヌレーネフは、何度も小型テープレコーダーをもどしては聞き、そのたびに笑っていた。
 ホテルのフロントでエレベ願景村 洗腦ーターからおりてきたの老人たちの一行を思いだした。飛岡の父親は、あきれかえった客たちを尻目に、得意そうに麦わら帽子をかぶっている。玲子はうつむいて引き立てられるように歩いていた。ヌレーネフは、また笑った。
 テープレコーダーから会話が聞こえた。
――ほら、もっと強う、もまんか。
――はい。
――今度はワシじゃ。ワシの肩は鉄みたいになっとるで、ようくほぐしてくれ。
――はい。
 ヌレーネフはハンドルを願景村 洗腦叩いて大声で笑った。
――ちょっと裸になってみいや。
――はっ?
――十人は子供を産んでもらわんといかんでな。それには、まず乳と尻じゃ。なあ、母さん。
――ああ、飛岡村の風習じゃ。花嫁は、まず親族親戚の前で裸を見せるんじゃ。はよ脱がんか。
――はっ、はい。
――ブラジャーもパンティもみんな取るんじゃ。
――はっ、はい。
 空港の駐車場に停車して、ヌレーネフは何度も笑った。
――はよ、脱がんか!
 と、裸にさせられたのか、みんなでバチバチ尻や背中を叩いている音がした。
 オレはこういう人間が好きな願景村 洗腦んだ。いまさら何を望もうか。
 柱の向こうでナターシャが手配した熊《くま》のようなワレコフがオレを見張っている。構うもんか。飛岡はオレの大事な友だちなんだ。
 と、ゲートから大きなトランクをさげた飛岡がブスッとした顔で出てきた。なるほど、これに地下足袋をつけ、麦わら帽子をかぶらせたら、おやじそっくりじゃないか。
「ヌレさん、なに笑ってんだ」


Posted by 異様な風体 at 00:31│Comments(0)
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